1.労働生産性を上げるためにBIM?
12月6日に建築DXに行ってきたが、BIM活用と現場カメラ活用の展示が多い印象だった。令和3年に行った国土交通省の調査ではBIM導入していると回答した企業が46%、BIM導入していないと回答した企業は53%だ。
国土交通省の令和4年12月の調査によれば、建築業界の特徴は4つある。
①建設技能労働者の高齢化
60歳以上の者が25.7%を占めており、30歳未満の者が12%しかいない。
②生産性の低さ
2020年の建設業全体の労働生産性は4,050円で、全産業平均(5,255円)を下回っている。
③長時間労働
全産業平均と比較して年間340時間以上の長時間労働の状況。
令和3年では建設業は1,978時間、製造業が1,874時間だったのに対し、全産業平均は1,632時間。
④企業規模
建設業全体及び建築設計業は、従業員300人未満の中小企業が99.9%を占める。
4人以下の企業も建設業全体で51.9%、建設設計業で76.0%を占める。
この中の労働生産性を上げる鍵となっているのがBIMである。世界と比較して日本はBIMの導入が遅れている状況だ。IT後進国日本と呼ばれる所以がここでも現れている。日本の場合、システム導入をする場合には既存のプロセスをシステムに置き換えることばかり考える傾向にある。BIM導入においても同じ思考回路に陥っている印象だ。
右へ倣えの文化がここでも悪影響を及ぼしている。業務プロセスを改革する、あるいは改善するには、右へ倣えでは実行できないからだ。
2.BIM導入の鍵は業務プロセス改革にあり
BIM導入の鍵は、システム導入と同様に業務プロセス改革が必要となる。単なる設計業務の入れ替えではなく、例えば同じファイルに施工図を追加したり、メタバースへ活用することで合意形成の効率化に役立てたり、試行錯誤の上で導入を実現しなければならない。
中小企業によくあることで、スピード感を重視しすぎるあまり、長期的に何かをするということを考えない傾向にある。企業運営には資金が必要で、スタートアップから経験している経営者にとって、短期的に利益回収を実現しなければ、キャッシュがバーンアウトするリスクがあるからだ。現実的な話としてそうなるのは仕方がないことだと思う。
国交省としてはBIMの普及率を早く上げたいらしく、建築BIM加速化事業を始めたり、BIM/CIMポータルサイトを立ち上げたり、かなり意欲的だ。あくまで予測だが、これからBIM導入に向けて考えられるシナリオは3つあると思う。
①10人以下の企業の吸収合併を促し、BIM導入率を上げる
先ほどいった通り、企業の規模によってはキャッシュがバーンアウトしてしまうため、1企業でBIM導入を進めるのは無理があるので、現実的にするためにBIMが導入できない企業の吸収合併が促進される。国によって吸収合併が促されるのは保険業では昔よく聞いた話だ。
②BIM部分のアウトソーシング
これは最悪のシナリオになるかもしれない。BIM部分をアウトソーシングするとして、おそらくその先は海外になるからだ。海外にアウトソーシングするということは、日本では結局BIMを活用する能力が養えなかったということになる。建築DXのコントロールを海外に握られてしまうという最悪のシナリオだ。
③国土交通省がBIM導入支援事業を進めるのみに留める
これはBIMを導入できなければ、それはそれで構わないというスタンスだ。この場合、BIMを導入できないところは仕事がとれずに自然消滅していくことも考えられる。しかし、時間経過によりBIMスキルをもった人材も市場に多く出てくるはずで、その人材を獲得して生き延びるチャンスがあると考えられる。
中小企業にとって一番現実的で望ましいのは「③国土交通省がBIM導入支援事業を進めるのみに留める」だろう。そしてうまくBIMスキルをもった人材を獲得することができれば、勝ち筋に近づくだろう。
困るのは①や②の選択肢だ。どちらもWIN-WINの結果にならない残念な結末だ。
まとめ
[生産性を上げるとはどういう意味?]でも話をしたが、システム導入の困難さは経路複雑性によるものが大きい。単なる既存業務の置き換えでシステム導入をするのではなく、既存の業務プロセス(業務の手順、流れ)を理解した上で、それを改善することを前提に進めなければ、システム導入には失敗するだろう。BIM導入も同様の考えが必要だ。
いずれにしても、建築DXの一番の鍵はBIMにあるという印象が感じられた。もしBIM導入に関心があり、しかし導入がうまくいっていなければ、導入の鍵となる業務フローの作成とそれを元にした業務プロセス改善に挑戦してみてはいかがだろうか。